【パターン・ランゲージ活用事例】ウィルソン・ラーニングワールドワイド株式会社  三浦英雄氏「ワクワクする未来をみんなで創る実践知」(後編)組織イノベーションの活用事例―越境リーダーシップパターンを使った今後の展望とは


「前編:組織イノベーションの活用事例−−越境リーダーシッププロジェクトの立ち上げとパターン・ランゲージの導入」では、ウィルソン・ラーニングワールドワイド株式会社(以下、ウィルソン・ラーニング)の三浦さんが、組織の枠を超えて活躍する人たちの行動を研究する「越境リーダーシッププロジェクト」を発足し、パターン・ランゲージを導入し始めたことで感じられた効果をご紹介しました。
 後編では、「越境リーダーシップパターン」の作成プロセス、現在の活動と今後の展望、最後に三浦さんが考えるパターン・ランゲージの魅力をお伝えします。

パターンを書いたら終わりではない…実際に作成して、人に伝えるためのこだわりが重要であることにも気づかされた

 越境リーダーシップパターンの作成プロセスでは、インタビューをもとに、メンバーとパターンを書き起こしていきました。まず、「越境リーダー」として活躍する15名のインタビューを敢行しました。越境的な人脈をつくり、社外の影響力を使って社内を動かすことで、組織にイノベーションを起している方々です。たとえば、行政の枠組みを超えて企業やNPOとつながり新事業を立ちあげた市の職員の方や、企業内で社会的な事業を興した方などです。
 インタビューの内容をパターンに分類していくのは、ウィルソン・ラーニングの社員、社外のプロジェクトパートナー、井庭研究室を卒業された研究者の方6名で行いました。3時間ほどのミーティングを3度行い、ある程度パターンの内容、関係性を整理しました。その後、書いていく作業は業務の合間をぬって行う必要があるので、土日も使って執筆を進めました。
 多くのパターンを抽出しましたが、なかでも結果を創るうえで影響の大きい20パターンに絞りました。書く内容ははっきりしてきてはいたのですが、その20個をどのようにまとめたら伝わりやすくなるか考えるのが難しかったです。また、個々のパターンができたあとも、20個を並べ替えたり、記述を調整したりするのですが、はじめににつくった構造(全体像)に対し、周囲から分かりにくいという意見をもらいました。そこで、再度構造を考えて、時間軸で並べなおしたのが、今の越境リーダーシップパターンです。その方が流れがあって読みやすいんです。最終的には自分でも納得いくまとめ方ができましたが、その過程は辛かったですね。

まとめ方にこだわった越境リーダーシップパターンの中身

まとめ方にこだわった越境リーダーシップパターンの中身

「未来の越境リーダー」を発掘し、彼らを組織が受け入れていけるための実践研究の場をカンファレンスとして展開中

 現在、企業と一緒に「越境リーダーシップ」について考え、対話する場を作っています。どの企業にも想いを持って社会的な問題解決を事業を通じて行いたいと思っている人がいるのに、その個人の力を活かしきれていないと思うからです。みなさん、想いはあっても、結局、自分の会社のなかでは価値創造を興すのは無理だと諦めてしまっている場合があります。想いをもった人たちが一歩踏み出すきっかけとなる選択肢を見えるようにする、そして、挑戦する意志のある人を発掘していけるような場を作りたいと思い、「越境リーダーシップカンファレンス」というオープンな場を作っています。具体的には、越境リーダーであるゲストスピーカーと、カンファレンス共催企業の中で越境的活動に取り組んでいる方、またその越境リーダーをうまく生かしている上司のトークセッションを行い、その後、来場された方同士で、「越境リーダーシップパターン」を使って組織にいながら越境リーダーシップを発揮するための対話ワークショップを行っています。
 この取り組みは啓蒙活動のようなもので、「こんな働き方や選択肢があるんだ」という気づきを得る場と考えています。というのは、実際には、事業を興すのは、こういった話を聞いたからといってすぐに行うわけではなく、個人個人にとっての勝負するタイミングがあります。ですので。将来的に、個人の人生における転機となるようなタイミングで、やりたいことの実現に踏み切っていけるように、「越境リーダーシップ」の考えに触れ、実践者同士で支え合い、行動を起こしていける社会的な仕組みや組織内の仕組みをつくっていきたいと考えています。また、新しいビジネスや価値を創造することは、大きな組織で、事業モデルが固定化されているほど、理解されず、孤独になりやすいです。ですから、実践者個人をつなげていくための、組織を跨った越境リーダーのコミュニティ作りも必要だと思います。ここに、これから越境的な活動に挑戦していきたい人や、メンターとなるようなすでに越境リーダーと言える人たちに入っていただき、メンタリングをしながら前に進めていくようなサポートができたらと思います。
 実践者のコミュニティで実践知を共有するツールとして越境リーダーシップパターンを活用したいと思っています。先にも話しましたが、個別の知識とか方法論とかそういったものは問題にぶつかってから得ていけばいいと思うんです。事業がまだ進んでもいないのに事前に事業計画のつくり方を教える必要はない。欲しいタイミングで必要な情報、知識、スキルを獲得していけばいいんです。ですから、動き出した事業を前に進めていくときに、越境リーダーシップを発揮しようとしている仲間同士でパターンを通じて話していくことで、適切なタイミングで適切な実践知の共有が図れると思います。さらに、解決法や具体的なアクションだけじゃなくて、「在り方」も共有されることで内省が生まれます。そして、「挑戦しているのは自分だけじゃない」と実感し、勇気が出ます。そして、「実際に乗り越えてきた人たちがいる」と希望を持つことができます。

未来の越境リーダーを支える仕組みの重要性を語る三浦さん

未来の越境リーダーを支える仕組みの重要性を語る三浦さん

個人が持つ思いや信念を花開かせるために…実践者を主体とした仕組み作りが企業に希求される

 今、日本企業の多くがイノベーション、新規事業が重要だとメッセージしています。しかし、実際には既存事業の枠組みで、組織の論理で判断されてしまう取り組みが多いように思います。それではイノベーションが起きにくい。また、「イノベーションを興すためにイノベーション研修だ!」と言われて方法論を付与されても、自分が何をどうしたいという想いがなければ響かないとも思います。だからこそ、実践者を主体とした仕組み作りが行われていく必要があるのです。組織に入る人は、企業理念に共感している人たちが多いはずです。その企業理念とは、社会的な使命や事業の目的です。ただ、組織が大きくなり、分業化が進むと一個人が行う業務は、社会的な使命や目的とは直接のつながりが見えにくい。日本社会も日本企業も停滞し、大きな変化が必要な今は、個人にとって大きなチャンスです。原点に立ち戻り、自分の想いと組織の理念を重ね合わせながら社会の課題を解決し、望む未来を創る行為を個人が起点に日本の企業で興していくことで、日本の企業はもっと世界で活躍し、これからの世界に必要な価値をもたらすことができると思います。「越境リーダーシップ」を発展させ、世界の企業に対してのウィルソン・ラーニングのグローバルな事業として行うことで、働く個人が充実感伴う共創的な価値創造を支援することを実現する。それが今の自分の目標です。

パターン・ランゲージを通して「つくることによる学び」をより多くの人に実感してもらいたい

 実際に作成に取り組んでみて、井庭さんが言っていた「創ることによる学び」が本当にその通りだと感じています。私は、自分の実体験にパターンに書かれている「状況」が表れてきた時、冷静に「お、来た」という感じで自分の行動を認識できるようになっています。大人の教育で難しいのは、自分が困っていることに対して誰かから解決策を教えてもらっても、うまく自分に取り入れられないこと。自分の経験してないことはイメージしにくく、ピンとこないんです。もう一つは、自分の経験がどんな意味があったのか理解するのが難しいということ。知識を吸収するのは得意でも、自分の経験を概念化して体系化するのはとても難しいことです。その点で、解決策を具体的にイメージして未来に備えることと、自分の経験を体系化することの両方を達成できるということが、パターン・ランゲージの魅力だと思います。
 今構想しているプログラムの中でも、参加者主体でイノベーティブな動きをとっていくためにパターン・ランゲージの作成を取り入れてみたいと考えています。多くの人に、実際につくるプロセスを体感してもらって、つくった後に、「あ、これはこのパターンに当てはまる」「つくったものがちゃんと使えた」というようにしたいですね。パターン・ランゲージを自分たちでつくると、自分の中に思考に関する棚ができて整理された状態になります。ですので、自分以外の人が抱える問題を聞いた時にも、「あ、この話だ」とパターンを使って認識できて、その人の問題解決の役にも立てます。実践者から挑戦者に実践知を受け継ぎ、発展させていくことができるのではないと考えています。

三浦さんが考えるパターン・ランゲージの魅力

三浦さんが考えるパターン・ランゲージの魅力

 越境リーダーシップパターンの作成や、それを実社会にいかすためのカンファレンスの開催、新しいプログラムの構想まで、三浦さん自身が越境しながらプロジェクトを通して多くの学びを得てきた経験を熱く語っていただきました。ご自身が苦労しながらパターン・ランゲージを書いたからこそ感じられた「つくることによる学び」を、より多くの人に感じてもらうことで、社会を変えていけるという強い思いが感じられるインタビューでした。