【パターン・ランゲージ活用事例Vol.3】トヨタ自動車 未来プロジェクト室 「定性的なのに体系的で網羅感がある、顧客理解の新しい手法としてのパターン・ランゲージ」(後編)


トヨタ自動車(以下トヨタ)の未来プロジェクト室では、サービス・商品の対象となる顧客の価値観をつかむための新しい手法として、対象者がいきいきとするためのパターン・ランゲージを作成しました。パターン・ランゲージをつくることから得た学びや発見をご紹介した前編に続き、後編では、できあがったパターン・ランゲージの今後の活用イメージと、皆さんが感じたパターン・ランゲージの可能性、魅力ついてお伝えします。

なお、このインタビューでは、本プロジェクトに関連する以下の方々に語っていただきました。
・鈴木雅穂さま 未来プロジェクト室 現室長
・大塚友美さま 未来プロジェクト室 前室長
・吉田大さま 未来プロジェクト室 本プロジェクトの主担当

できあがったパターン・ランゲージで、顧客理解・コミュニケーション・育成を変えていきたい

【吉田さん(本プロジェクトの主担当)】
 パターン・ランゲージができあがり、今年からは、いよいよ具体的なサービスを考えるツールとして使い始めます。まずは、サービスデザインの一つの要件として、それを元にアイデアをつくっていくことから始めます。また、プロトタイピングや実証実験において、お客様から意見を聞くときの対話のツールとしても使いたいですね。「今回のサービスは、このパターンの観点ではどうだったか?」と確認していくことで、ある種のKPIとして使えると思っています。

【鈴木さん(現室長)】
 私はこれまで市場調査や商品企画などお客様や市場に接する仕事に長く携わってきましたが、そういった視点と、未来プロジェクト室のミッションを踏まえると、パターン・ランゲージには、三つの活用可能性があるのではと感じています。
 一つ目は、お客様との関係性の理解をもっと深めていくためのツールとしてです。現在は、クルマというハードをつくって販売するビジネスモデルの中で、クルマに求められる性能や機能を把握するというのが主体であります。一方、今後の様々な環境変化の中で、お客様が本当に望み、喜んで頂けるような移動のハードやサービスを提供するためには、お客様との関係性の理解をもっと深めなければなりません。そのためには、生活者が「移動」に求めていることへの更なる深い洞察だけでなく、生活全般にもっと考えを及ばせる必要があります。従来の調査手法だと、様々な既成概念のバイアスがかかる可能性があります。たとえば、「どんな性能が求められるか」など従来の観点から抜けにくいのです。その点、パターン・ランゲージは、ターゲットの本質がリアルに網羅的・体系的に描かれているので、それを元に発想することで、生活者との関係性を見直し、求められているものを把握するために使えるのではと考えています。
 二つ目は、企画に関わる者同士のコミュニケーションツールとしてです。イノベーティブなサービスを創造するためには、生活者、他業種、行政など、様々な方々と一緒に企画を練り、実行していくことが求められます。そうした多様なステークホルダーと共創的な企画づくりをする上で、パターン・ランゲージは、様々な学びや知見を共有するプラットフォームのようなものになるのではと思っています。
 三つ目は、プランナー育成への活用です。これはまだ漠然としているのですが、プランナーのもつ様々な暗黙知を、パターン・ランゲージを使って共有できないかと考えています。みな、個々に試行錯誤しながら、独自の視点をもっているはず。パターン・ランゲージを使って、クリエイティブなプランナーをどんなふうに成長させていけるのか、考えていきたいですね。

【吉田さん】
 パターン・ランゲージは、行動を誘発する力があると思っています。ユニークな言葉とビジュアル(イメージ)をセットで覚えることによって、自然とその行動を取ってしまうところがありますよね。例えば、トヨタが行政や地域の方と一緒に何かに取り組む時に、パターンをスローガンのようなものとして共有しておけば、みんながそこに向かって自然と行動するようになる雰囲気をつくれるのではないかと考えたりもしています。

プロセスに関わっていない人たちへ浸透方法を工夫し、社内での活用を広めたい

【吉田さん】
 今の課題は社内への浸透です。メンバーが作成プロセスの中で身をもって感じとったリアリティを、つくっていない人へどう伝えていくか。できたパターン・ランゲージの冊子を渡すだけでは伝わりきらないと思いますし、ひとつひとつのパターンを説明するわけにもいきません。時間がない中でも、この本質に触れやすい工夫を考えていかなければと思っています。
 私は、パターン・ランゲージの可能性を信じています。これからの時代、社会を豊かにするためには、機能や効率だけではなく、心に響く、心を動かすものづくり・サービスデザインをしていかなければなりませんから。技術革新が加速する中で、そういった「心」や「感覚」の観点で、新しい手法を研究して取り入れ、発信していくこともまた、同じくらい加速させなくてはいけません。


あらゆる側面からパターン・ランゲージの活用方法について語る皆さん

あらゆる側面からパターン・ランゲージの活用方法について語る皆さん


今後も、価値観を理解しあうためのツールとして活用を広げてみたい

【吉田さん】
 今回の制作物から離れ、パターン・ランゲージそのものを考えると、別の活用可能性も浮かんできています。私は、パターン・ランゲージをグローバルに使ってみたいです。たとえば、海外の事業体からの提案を、日本の本社が判断する時、スムーズに意思疎通することが難しいときがあります。私たちも、海外の各地域の意見を尊重したいのだけど、文化の違いから平行線になることもあって。パターン・ランゲージでお互いの考え方・価値観を上手く伝えられると変わってくると思います。

【鈴木さん】
 私たちはグローバルモデルを企画していますが、海外のお客様の理解というのは簡単ではありません。例えば、パターン・ランゲージを使って、海外のお客様の考え方・価値観を分解整理して体系化することができればお客様の望むことをより理解することができるようになるかもしれません。

【大塚さん】
 私は現在、海外の事業体も含めた人事に関わっていますが、社内で大切にしていることや、これまでつくってきた商品にみるトヨタらしさを、カルチャー・ランゲージ(※)で記述することで、ひとりひとりがトヨタのよさを再確認できるようにしてみたいな、と思っています。今も「Toyota Way」というものがあり、それに近いのですが、もっと進化させる事ができるのではと思います。
自社の良さというのは 意外に気付く事が難しく、特に若いときには商品や会社に対する誇りというのは なかなか芽生えにくいのではないかと思います。ですから、先輩や自分たちが何を大切にしてきているのかを、カルチャー・ランゲージをつくりながら発見していったり、またそれを使って話したり、ということは、モチベーションを上げたり、人材育成に有効だと思うのです。また社内のコミュニケーションを創発させる方法としても活用できるのではないかと思います。

(※)カルチャー・ランゲージ…パターン・ランゲージの記述方法を応用して、組織の文化を記述して可視化し、共有する手法。

トヨタ未来プロジェクト室が語るパターン・ランゲージの魅力

【吉田さん】
 今後ユーザー体験をどうデザインするかが重要になっていく中で、クルマを含めた多くの製品・サービスは、まだまだスペックや利便性、効率性などが中心として語られていて、お客様の心がどう変化するか、といったところまでは十分に検討できていないのではないかと感じています。ですから、パターン・ランゲージでユーザーの心を理解することは、新しい価値を吹き込んでいくための道しるべになると考えています。


未来プロジェクト室 吉田さんが考えるパターン・ランゲージの魅力

未来プロジェクト室 吉田さんが考えるパターン・ランゲージの魅力



【大塚さん】
 ビジネスをやっていく上では、右脳的思考と左脳的思考の両方が大切ですが、パターン・ランゲージは、論理的でもあり、でも、感覚や想像力を刺激してインスピレーションを沸かせることもできる。そういった意味で、右脳と左脳、その両方を鍛えることに効くと思います。

未来プロジェクト室 大塚さんが考えるパターン・ランゲージの魅力

未来プロジェクト室 大塚さんが考えるパターン・ランゲージの魅力



【鈴木さん】
 パターン・ランゲージは、知見のプラットフォームになれないかと考えています。クルマの開発において、よいプラットフォームが性能が高く且つ多様性あるモデルを生み出すように、生活者の様々な視点や考え方が体系化されたパターン・ランゲージを知見の土台とすることによって、多様性があり魅力的な企画やアイデアが生み出せないかと期待しています。

未来プロジェクト室長 鈴木さんが考えるパターン・ランゲージの魅力

未来プロジェクト室長 鈴木さんが考えるパターン・ランゲージの魅力



 いかがでしたか? 今回は、トヨタの未来プロジェクト室によるパターン・ランゲージの作成や活用、そこから感じられた可能性について語っていただきました。未来を描くための新しい手法に取り組まれている部署だからこその、鋭い着眼点と深い理解。未来プロジェクト室での模索は、ものづくりにおけるパターン・ランゲージ活用において、世界でも最先端の事例となりつつあります。
関わられた皆様がそれぞれに独自の視点でパターン・ランゲージを捉えておられ、これからの広まりが楽しみになるインタビューでした。