〜人気介護施設「ゆず」に学ぶ、パターン・ランゲージ「ともに生きることば」の組織活用〜
この記事で学べること
・パターン・ランゲージを成長と評価の共通言語とするメリット
・自社の理念や状況にパターン・ランゲージをアレンジする大切さ
*介護事業に限らず「理念と実践の結びつきを強めたい」「評価に悩みがある」組織すべてに応用可能です

ゆずの川原さん(右)と堀田さん(左)
「同じ方向を向いているか」を問い続ける組織
広島県尾道市を拠点に、認知症ケアや自立支援介護に取り組む株式会社ゆず。 同社が大切にしているのは、「とにかく長く働いてもらうこと」でも、「離職率を下げること」そのものでもない。
代表取締役の川原さんは、組織のあり方についてこう語る。
「同じ方向を向いて仕事ができているか、そこをすごく大事にしています。 合わない人が無理に我慢し続けるのも、違うと思っていて。」
介護という仕事は、人としての関わりが求められる一方で、事業として成立させる視点も欠かせない。 ゆずでは、その両立を前提に、日々の判断や対話が積み重ねられている。
川原さんの右で実務を司る堀田さんもまた、ケアの質と働く人の状態は切り離せないと話す。
「利用者さんの幸せって、働いている人の状態と直結していると思っています。 限られた8時間の中で、何を大切にして働くのかを考える文化はあると思います。」
「評価」が形骸化していたという違和感
そんなゆずが、「ともに生きることば」を導入するきっかけになったのは、 従来の評価や面談に対する違和感だった。
川原さんは当時を振り返る。
「正直、それまでの評価は、ちょっと義務的になっていました。
理念に基づいて振り返ると言いながら、実際は人によって基準がバラバラで。」
理念はある。しかし、それを日々の振り返りや目標設定にどう落とし込むかについては、 組織としての“共通の物差し”がなかったという。
「職員が事業所を異動すると、管理者によって評価が100点だった人が50点になったり、 逆に50点だった人が100点になったりすることもありました。 つまり、面接する側の価値観によって、評価が大きく左右されていたんです。 最終的には、僕らが目を通して賞与や昇給に反映していましたが、 そこにずっと違和感が拭いきれずにありました。」
堀田さんも、面談のあり方に課題を感じていた。
「同じ話を何年も繰り返してしまうことがあったんです。 愚痴っぽくなったり、感情論になったりして、次の行動につながらない。」
そこで必要だと感じたのが、 感覚や印象ではなく、客観的に振り返るための言葉と仕組みだった。
自分の行動を「言葉」で振り返れるようになった
いろいろな仕組みを試行錯誤する中で、 川原さんたちは「ともに生きることば」に出会った。
川原さんは当時の印象をこう振り返る。
「いろいろ模索してきた中で、『ともに生きることば』に出会ったとき、 “これだ”と思いました。 迷ったときの判断軸にもなるし、自分の成長を振り返るきっかけにもなると感じたんです。」
「ともに生きることば」を職員の振り返りの指標、そして1on1での指導に使い始めてから、 組織や現場の空気には、少しずつ変化が生まれていった。
川原さんが最初に感じたのは、職員の“語り方”の変化だった。
「自分の行動を、『この理念に沿っていたかな』と 言葉にして振り返れる人が増えました。」
「今年はこの言葉を大事にしたい」と、 自分から目標を語る職員も増えていったという。
1on1をする上司の方が変わったと思う、と語る川原さんと同様、堀田さんも、面談の質が変わったと感じている。
「以前は感覚的に話していたことが、 今は言葉として整理されて共有されるようになりました。面談も、話して終わりではなく、 次に何をするかが見える場になってきたと思います。」
変化を生んだのは、「同じものを見て話す」構造
なぜ、こうした変化が生まれたのか。 二人が共通して挙げたのは、「共通の視点」が生まれたことだった。
川原さんはこう整理する。
「理念と直結した言葉で振り返れるようになったことが大きいですね。 個人の主観ではなく、同じ視点で自分を見ることができるようになった。」
堀田さんも、評価する側・される側の関係性に注目する。
「何を大切にしていたかが“見える”ようになった。 それに、評価する側とされる側が、同じ資料を見て話せるようになったのは大きかったです。」
評価のために話すのではなく、 次にどうするかを一緒に考えるために話す。 その前提が、少しずつ組織に根づいていった。
「ともに生きることば」が果たした役割
では、その変化の中で、「ともに生きることば」はどんな役割を果たしていたのだろうか。
川原さんは、大きく二つあると話す。
「一つは、考え方や目標設定の仕方をそろえたこと。 もう一つは、自分で読んで、考えて、言葉にする、その内省のプロセスを支えてくれたことです。」
評価のための作業ではなく、 意味のある振り返りに変わった感覚があったという。
堀田さんも、言葉が対話を変えたと感じている。
「自分のケアを言葉にできるようになったのが大きいですね。 言葉があると、自然と対話も深まります。」
「借り物」から「自分たちのツール」へ
導入当初はそのまま使っていた「ともに生きることば」だが、 途中から、ゆずの理念や考え方に合わせて組み替えが行われた(※)。
これは、この成長支援としての評価軸として、 一般的な「介護」から「ゆずが求める行動」に焦点を移し替えたことを意味する。 介護施設の質を高める「ともに生きることば」は、 そのまま解釈すると経営視点も含まれたものであったからだ。合ってはいるが、少し遠い。 そこを解消する策だった。
川原さんは、その変化をこう表現する。
「理念に合わせて組み替えたことで、 現場の感覚と制度がズレなくなりました。“借り物のツール”ではなく、 “自分たちのもの”になった感じがあります。」
堀田さんにとっても、その効果は実感として表れている。
「面談の時間が、明らかに有意義になりました。 話が整理されるので、問題解決に向かいやすくなったと思います。」
振り返りを「個人の感想」から「共有できる材料」へ
ゆずでは、「ともに生きることば」を使った振り返りが、 日常業務の中に組み込まれている。
流れ自体はシンプルだ。 まずはGoogleフォームで自己チェックを行い、その結果をレーダーチャートとして可視化。 それを面談の共通資料として使う。
川原さんは、この仕組みのポイントをこう説明する。
「まずは自分で振り返ってもらって、 それを“見える形”にしてから話す、という流れです。」
堀田さんにとっては、 この「見える形」があることが大きかったという。
「ケアって、どうしても定性的になりがちなんです。 でも、言葉と数値で整理されていると、 同じ資料を見ながら話せるので、すごく使いやすいです。」

レーダーチャートが変えた、面談の空気
レーダーチャートを使うようになってから、 面談の場での会話も変わっていった。
川原さんは、その変化を端的にこう表現する。
「感覚で話すのではなく、 “見ながら話せる”ようになりました。」
評価する側が感じたことを伝えるのではなく、 一緒にチャートを見ながら、「ここはどうだったか」「次はどうするか」を考える。 自然と、次の目標の話につながりやすくなったという。
堀田さんも、対話の質の変化を感じている。
「感情論に流れにくくなりました。 話す側も、聞く側も、負担が減ったと思います。」
「一つにまとめない」からこそ、現場に合った
ゆずでは、すべての事業や部署で、同じ言葉をそのまま使っているわけではない。 自立支援介護や看取りなど、前提が異なる現場ごとに、 言葉や枠組みを使い分けている。
川原さんは、その判断をこう語る。
「前提が違う現場を、 無理に一つの言葉でまとめる必要はないと思っています。」
同じ言葉でも、意味合いや目指す方向が異なれば、 現場に違和感が生まれてしまう。 だからこそ、「分ける」ことを選んだ。
堀田さんも、現場目線でのメリットを挙げる。
「判断がしやすくなりました。 同じ言葉を、同じ意味で使えることの大切さを実感しています。」
最後の一部分を差し替える、という選択
自立支援介護(脚注つけたいのですが、何か参考になる文章はございますか?)の事業所では、 「ともに生きることば」のお看取りに関する部分を自立支援に差し替えるアレンジが行われている。(※※)
大きく作り直すのではなく、あくまで部分的な変更だ。
川原さんは、この形を「ちょうどよかった」と振り返る。
「最後だけ差し替える形が、現実的でした。 全部作り直さなくていい、というのは大きかったですね。」
堀田さんも、現場へのフィット感を感じている。
「自立支援の現場に、無理なく合っています。 ケアの方向性を、言葉で確認できるのがいいと思います。」
一から新しい仕組みをつくるのではなく、 共通の土台を残したまま、必要な部分だけを変える。 その柔軟さが、現場で使い続けられる理由の一つになっている。
数字よりも、「同じ方向を向いているか」
最後に、よりよいケアを目指す組織へのメッセージを尋ねると、 二人の言葉は、自然と「人」に向かった。
川原さんは、こう呼びかける。
「離職率や数字だけを追わないでほしいですね。 本当に同じ方向を向いているか、そこを問い続けてほしいです。」
堀田さんも、日々の現実を踏まえて語る。
「時間は有限なので、理念を意識した行動ができるようにすることが大事だと思います。」
「働く人の生活や状態にも、 ちゃんと目を向けてほしいですね。」
「ことば」は、組織を変える入口になる
介護に限らず、 パターン・ランゲージのような「ことば」を使って 対話や評価、組織づくりを変えたいと考える人たちへ。
川原さんは、こう締めくくった。
「共通言語は、組織を支えると思います。 納得できる評価が、人を育てるんじゃないでしょうか。」
堀田さんも、静かにうなずく。
「言葉があると、対話が整理されます。 組織が変わるきっかけになると思います。」
おわりに
「ともに生きることば」は、 評価のためのツールではなく、 現場で考え、語り合い、次の一歩を決めるための“共通言語”だった。
言葉がそろうことで、 会話が変わり、判断が変わり、 少しずつ組織の空気が変わっていく。
ゆずの実践は、 介護の現場にとどまらず、 人と組織の関係を見直したい多くの現場に、 静かなヒントを投げかけている。
御社への導入は…
本ケースのように、理念を社員の実践に移し込んでいくための取り組みにパターン・ランゲージ(実戦を支援する言葉)を活用してみたい方は、当社サイト右上「お問い合わせはこちら」へご連絡ください。担当よりご連絡させていただくにあたり、必要な事前情報(業種・悩み・関心事など)がございましたら合わせてご記載をお願いいたします。
(※)本取り組みでは、『ともに生きることば』の著者であり、 クリエイティブシフトの事業共創パートナー(仮名)である金子氏が伴走し、 ゆずの理念や実践に合わせた形で言葉の組み替えを支援している。
(※※)自立支援介護とは、水分・栄養・排泄・運動といった基本的なケアを整えることで、高齢者の身体機能の改善を図り、できる限り自立した生活を取り戻すことを目指す介護の考え方です。日々の基本ケアを丁寧に実践することで生活機能の向上を促し、介護への依存を少しずつ減らしていくことを目的としています。