―山下さんのお仕事を教えてください。
所属しているNPO法人(小規模多機能型居宅介護事業所)から出向という形で、山鹿市の認知症地域支援推進員となって今年で9年目になります。以前から小中学校・高校へ出向いて「認知症サポーター養成講座」をしていたのですが、2018年から、プログラムの中で「旅のことば」を使い始めました。
初年度は4校、2019年度は8校、2020年度はコロナ禍にも関わらず10校で採用いただき、これまで787人の児童・生徒さんとともに「旅のことば」を使ったワークショップをしてきました。
認知症サポーター養成講座で「旅のことば」を使うと、どんなところが良いのですか?
子どもたちの感想が、私の想像の範囲を超えてくるんです。
「旅のことば」カードを使う前は、絵本や〇×クイズなどを使っていたのですが、発言してくれる内容をある程度こちらで想像できるようになってしまったんです。それで、もっと子どもたちの想いを引き出したいと考えたのがカードを使い始めたきっかけなのですが、、、実は、今でもカードを出す前は不安になります。
でも、実際に使うと、スッと入ってくれて予想・期待値を超えた声がかえってくるので、毎回…本当に毎回、びっくりしています(笑)。「こんなこと考えられるんだ」と思いますし、鳥肌が立つこともありますよ。
認知症サポーター養成講座というのはプログラムが決まっていますから、正直、話している自分には繰り返し感があります。ですから、自分の想像を超える反応というのは私にとってもやりがいになっています。
素晴らしいものが沢山あってもう選びきれないくらいですが…。
例えば、《ないまぜのイベント》というカードを選んだ小学4年生の子は、「認知症の人はなりなくてなったわけじゃないし、病気だからとか関係なく、みんなでイベントをしたらいいと思いました」と。小4でこんなふうに考えられるんだなぁと感心しました。
また、小学5年生からこんな感想がありました。「本人って書いてあるカードは未来がひらけるカードで、家族のカードはみんなで支え合う気持ちが込められている感じがしました。みんなのカードは、心が温まります。」と。未来がひらけるという表現には本当に驚かされました。
高校生は、話すときはちょっと斜に構えるというか…「え~みんなで話すの?」みたいな雰囲気もあるのですが、紙に書いてもらうと意外としっかりと自分事になっていたりします。「今日勉強したことを、伝えていきたいです」など。
これらは1エピソードに過ぎないですが、787人がそれぞれに認知症の方々に対していろんな考えや思いを持ってくれるんです。きちんと感じ取り、しっかりとイメージしてくれたんだなということが伝わってきます。
あとは、認知症そのもののことではないのですが、「同じカードを選んでも、こんなに考えてることが違うんだと思った」「お友達がこんなことを考えてるんだと知りました」などの感想も出てきます。みんなと「対話する」ということは意外とないようで、そういった体験としても意味があるのだなと感じています。
番外編ですが《さりげない告白》を選んだ小学4年生の男の子の理由が「一度は告白されたいからこのカードを選びました」と話し、それを聞いた女の子のが「告白は男子がするもんだよ!」と返していました。こんな想定外のほっこりエピソードも誕生します(笑)。
―子どもたちが自分事として、認知症のことを考え、できることに想いを巡らせるというのは、これからの社会にとってとても大切なことですよね。実際には、講座の中で、どのように「旅のことば」を使っているのですか?
サポーター養成講座は2コマで実施しています。小学校だと45分×2、高校だと50分×2になります。だいたいの進行は以下のようになります。
―実施しやすそうな進行プログラムですね。個人が話す時間もたくさんあり、全体でシェアする時間もあり、知識として学ぶ時間もあり、認知症についてしっかりと自分事にできそうですね。
では、最後に山下さんのお気に入りのカードを教えていただけますか?
お気に入りは《ないまぜのイベント》です。
実は「ないまぜ」という言葉は、このカードを見る前は知らなかったんです。縄をなうようにより合わせていくという意味であることを知って。
仕事がらいろんな企画をする中で、多世代の参加などを気にしているのですが、それぞれが絡み合い、そしてぐっと1本の縄になるような素敵なイベントを創っていきたいという想いがあります。
―今後に向けては、何かお考えですか?
来年、楽しみなことがあるんです。
2018年に「旅のことば」の認知症サポーター養成講座を受けた4年生が、来年は中学1年生になるんですよ。中1でも養成講座をしているので、4年生のときのコメントを中学校に持っていって「こんなこと言ってたよ」と見せたいな、と。どんな反応するかなと今からワクワクしています(笑)。オレンジリングを持ってはいるんだけど、2,3年経つと忘れてしまう子も多いので、これからは、継続的にみんなの成長や変化を追っていきたいと考えています。