―加瀬さんのお仕事を教えてください。

人材総合サービスの会社で、公共事業の受託運営をしている部門で働いています。世田谷区で就労支援などをしている「三茶おしごとカフェ」という施設の現場責任者をしており、キャリアカウンセリングやワークショップもしています。その他、「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」などを開催している「対話の森🄬」で月に2回ボランティアスタッフとして活動もしています。日々の活動をする中で「対話」を真ん中に置いてやっている感じです。

―「対話」を真ん中にですか! 素敵な表現ですね。「対話のことば」に出会う前から「対話」に関心をお持ちだったのですか?

いえ、2018年の10月に「対話のことば」の著者の一人である長井雅史さんと中村一浩さんとの対談イベントがあったんです。友人から「りょうさんが好きそうな場があるよ!」と誘われて。その場で初めて知りました。それぞれに大切なカードを選んで5人で対話したのですが、この最初の「対話」という体験、5人の空気感、場の感じが本当に一人の人同士で話せたという印象があって、心地いいというか、焚火を囲んでいるようだったという感じを強烈に覚えています。

―加瀬さんの中の「対話」の扉が開かれた感じですね。

「対話のことば」は、ナラティブセラピー的なアプローチであることが最初にすごくいいと思ったんです。問題は解決するのではなく、解消していくというところ。
その後、前述の長井さんが主宰する「対話のことばラボ」の一期生として参加することにしました。1期は、なんていうかみんな動物園みたいな個性的なメンバーでした(笑)。それぞれ言葉の解釈が違って、「対話とは」「オープンダイアローグってそうじゃないでしょ」みたいな意見のぶつかり合いが多発した分、対話についてみんなで深めていくことができたと思います。
そして、その「対話のことばラボ」の二期をやろうというときに、主催メンバーとして関わりました。ちょうど同じ時期くらいに「森のリトリート🄬」のプログラムにも参加していたりもしていて。その時期は「対話のことば」から1日1枚選んで、大好きな象のカード立てに大切な1枚を立てておくことを3ヶ月くらいは続けていました。(あ、僕、象が大好きなんです。)


―素敵ですね! 今日のカードを決めていくことで、その一日にはどのような影響があるのでしょうか?

例えば《内側から捉える》というカードを選ぶと、それはすでに言葉では理解できているんだけど、さらに「どういうことなのか」という問いが立つんです。イラストを見て、これはどういう感じなんだろうかと想像する。以前も、他の人にとっての《内側から捉える》とはなんだということを話したことがあって、そのときに『夢をかなえるゾウ』に出てくる課題みたいな感じだなと思ったんです。ガネーシャという神様で大阪弁のちょっとへんなゾウが課題を出していくんですけど、自分に一日一つ問いをだす、そんなイメージですかね。

―お仕事の場では、「対話のことば」カードはどのように使ってるんですか。

三茶おしごとカフェで使うときは、面談やキャリアカウンセリングの際に活用しています。
-カウンセリング前には、《これまでへの敬意》《ひとりの人として》などのカードを置いて、大切にしたいことの心構えとして使っています。
-「今日はこんな場にしましょう、時間にしましょう」という相談をするとき、相談者からなかなかことばが出てこないようなときには、「こういうカードあるけど使ってみる?」と聞いて、話しやすくするようにしています。
- 他にも、自己理解を深めるときに大切にしたい価値観とか、ご自身の興味関心とか、ご本人が大切にしていることはなんだとか、相手の方のお考えを時間をかけて掘り下げて聞くときに使います。カードを全部見せて、そこから気になるものを選んで話してもらったり。

カードを使うときは、基本的に本人に選んでもらうのですが、自分がよく使っているのは《小さなサイン》《体験している世界》《これまでへの敬意》《ひとりの人として》《言葉にする時間》ですね。なんとなく伝えたいときなど、相手のためというよりは、自分自身の気持ちを示すことも含めて、お互いのために使ってるんです。カウンセリングの場ってブラックボックスで、カウンセラーが先生みたいに扱われてしまったりしてしまうんですよね。僕はなんていうか、そのとき自分が感じたことを伝えることを大切にしています。この人にはこうだというのではなく、自分がこういうことを思っている、感じている、大切にしていることを出すために。
 例えば、自分と違う価値観の人と話すと自分が揺らぐということもあるし、そういうときは《ひとりの人として》を大切に。歳を重ねた方、役職定年された方とかとお話するときには《これまでへの敬意》を。



―相談者の方も、そのように接してくださると安心されるでしょうね。ご自身の中で「対話のことば」を使っていく中で変わってきたことはありますか?

そうですね。感じていることや違和感を会社の中で出すようになりました。カードを使って対話してきた経験が活きているなあと思います。ことばが身体に染みついているので、無意識に使っていることもあります。まずは、率直なことばが出やすくなりましたね。まずは言葉にするということが、筋トレみたいなもので続けていくうちにできるようになった。

―なるほど、筋トレですか。面白い表現ですね。

相談やミーティングのはじめにチェックインしたりするときに、気持ちを出したりするのって難しいことが多いですよね。つい、説明的になってしまったりとか、思考だけで話したりしてしまう。感情をことばにするとかよくわからないですよね。なので、自分がどういう感じなのかを定点観測する感じです。身体の違和感に気付けるヨガと似ている。自分の気持ちをことばにするとか、自分の身体に率直になるとかは練習しないとできない。毎日、チェックイン、チェックアウトをテキストベースで仲間とするとか、「対話のことば」一覧からことばを借りたりとか、自分のことを話せることのトレーニングしていた気がするんです。

率直にことばにすると、周りの反応もやわらかくなりました。関係性の質というと大げさかもしれませんが、みんながいろんなこと言っていいんだという空気になってきたので、チーム全体のパフォーマンスが上がっている気がしています。リーダーが色々決めてやるというよりは、対話的に自分がいることで、チーム全体がゆるくなったという感じ。
《混沌とした状態》というカードに保留ということばが出てきますが、保留するのがすごく上手になったんですよ。保留のやり方が増えた。なので、揉めると「お、混沌とした状態きたな」「ここは保留しどころだな」とか(笑)面白がったりしてます。

敢えて保留したり、とりあえず出すとか、対話のことばの概念を真ん中にすることで、矢印を人に向けるのではなく、場の真ん中に向けることができる。そうすると、会社でも楽になっていく。
ことばが出きった感じがわかってくるんですよ。みんなの声が出たな、というのが感覚的にわかる。

―ことばを真ん中にすると、矢印を人に向けるのではなくなる。すごく大切なことですね。「対話のことば」カードに関心はあるけれど、まだ使ったことがない方たちにお勧めの使い方があれば、是非教えてください。

カードを使って軽く対話してみるというのが一番お勧めですね。僕が最初にやったみたいに3人~5人で、自分が大切にしたいことを、ことばでもイラストからでもいいから選んでみて、なぜ大切かを話してみるというのが良いと思います。この体験があったからこそ、僕は一人でもできるようになったし、なんにせよ体験してみるというのはとてもいい。

―今後に向けて、何かお考えのことがあれば教えてください。

対話のことばに英語版があれば、それを持って世界を旅したいですね。
あとは、トランプみたいに家族とか近しい人と使えるものになっていくといいな。
軽い気持ちでできるといい。ちょっと考えているのは、ババ抜きみたいにしたら楽しいんではないかな。価値観ババ抜き🄬というのがあるのですが、「対話のことば」カードを取ったり捨てたりしながら、みんなで盛り上がりたいですね(笑)。




―りょうさんは、対話を何かの手段に使うというより、対話そのものを楽しんでいらっしゃるんですね。お話をきかせていただき、ありがとうございました。

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対話のことばラボのご紹介】
「対話のことばラボ」は、『対話のことば』を土台にしながら、対話を体験し、学ぶことを目的とした場です。全6回の対話を通じて、自分とつながり、人とつながり、新たな理解が生まれていくプロセスを体験すること。そして、その体験を踏まえて『対話のことば』について頭での理解を深めること。それらを通じて「対話」の知恵をそれぞれの日常に持ち帰っていただくことを大切にしています。
是非覗いてみてください。
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