「ラーニング・パターン・カード(日本語版)」を用いた世界初のワークショップは、「助産教育のあり方」への応用。伝えるべき知識の多さから、詰め込みになりがちな今の助産教育を振り返り、学び手の発見を主体とするためのディスカッションが行われました。
自律的・創造的に学んでいくためのコツをまとめた「ラーニング・パターン(通称ラーパタ)」。詰め込み型の教育の受け手でいるのではなく、自らが主体となり、学び方を学びながら自分の学びを進めていくことを支援する40の秘訣が書かれています。これまで慶應義塾大学SFC(湘南藤沢キャンパス)では、新入生を対象として長く使われてきていましたが、この度、ついに「ラーニング・パターン・カード(日本語版)」となり、学外でも使っていただきやすくなりました。
ラーニング・パターン・カード(以下ラーパタ・カード)を使った記念すべき1回目のワークショップは、全国助産師教育協議会東京地区の研修会での「助産教育を考える」。助産現場とラーパタはちょっと不思議な取り合わせにも見えますが…。
「私自身、こんなに『知のワクワク!』を味わうとは思いもしませんでした。得るものも多く、すぐにでも実践できそうと思えるのが何よりも魅力的だなと思いました。」
「次年度の大学院の講義シラバスを早速、見直し修正していこうと決意しました!」
というお声をいただき、有意義な会とすることができたようです。さて、ラーパタは、一体どのように使われ、どのような発見がうまれたのでしょうか?
この研修は、40名以上の助産師さんを教育される立場のみなさまが参加され、6時間にも渡る会となりました。井庭の解説やラーパタを知っていただくためのワークショップを経て、メインとなったのはラーパタから助産教授法を検討するワークショップです。
ワークは、ラーパタ・カードを机に広げ、それらを見ながら、助産教育に取り入れられるコツ(カード)があるのか、それはどんなふうに取り入れられるのかを議論しながら進みます。ラーパタは、学び手が自ら発見し、理解し、実践しながら学びを得ていく秘訣が示されていますので、それらのカードを机上に置いて議論をしていくことで、参加者は常に学ぶ側の視点を意識しながら教え方を検討することになるのです。
カードを見ながら話が進むうちに、各テーブルで様々な課題が見えてきたようです。
学生たちに、もっと《探求への情熱》をもってもらう必要がある。そのために普段の授業や研修ではどのような経験をしてもらえばよいのだろうか?
学生たちが研修などで《まねぶことから》学ぶことができるような工夫は、今はできているのか?
そして、次第に本質的な課題意識も聞かれるようになりました。
多くの知識を短期間に教えなければならない助産教育の現場では、現状では、必要な知識を基礎から順序立てて教えていくつくりになってしまっている。
《成長の発見》ができる順番で教えていかなければ、学生の学びはうまく積みあがらないのでは?
そんななかから、冒頭でご紹介した「シラバスを変える決意」につながっていったのでしょうか。きっと、これから、今までにない助産教育がうまれ、そして創造的な学びの得意な助産師さんがうまれていくはずです!
実は、今回のワークショップは、「ラーパタ・カード初使用」以外にも、新しい面がありました。
ラーパタは学び方のパターンであるため、これまでは、学び手側が「自分で自分の学びをデザインする」ためのツールとして使われてきています。ところが今回は、そのラーパタを、学生たちが創造的に学ぶためにはどう教えたらよいかを検討するという「創造的な学びをうながす教え方のデザイン」に使われたのです。
今回、そんな視点をもつことによって様々な気付きが芽生えたことから、ラーパタを使って「教え方を考える」ことは、他の教育分野でも活用していけることが想像されますね。
講演後には、このような声もいただきました。
「看護の現場、助産師の技は経験則による意思決定の連続です。その中でも、その経験則をどのようにエビデンスあるものにしていくかということに日々葛藤しております。
研修会終了後に、助産のラーニング・パターンを作ろうという話になりました。」
ラーパタを活用するという次元を超え、助産のパターン・ランゲージを作成していきたいというお話。さっそく、マイニング・インタビューを進められているそうです。助産のパターン・ランゲージによって、たくさんの幸せな助産現場がうまれていくとしたら、本当に素敵ですね。