【パターン・ランゲージ活用事例Vol5.】UDS株式会社 代表取締役社長 中川敬文氏「想いの伝承」(後編)企業への活用事例—Future Language Workshopの実践


 企業のパターン・ランゲージ活用事例を紹介する本コーナーの第5弾は、UDS株式会社(以下、UDS)。前編では、「CLASKA」や「キッザニア東京」を手がけたUDSが手がける事業の特徴や、UDS創業者の梶原文生氏が大切にする企画のコツを32のパターンにまとめた「Project Design Patterns」の作成について紹介しました。後編では、「Future Languageを使った、利用者参加型の場づくりついて取り上げます。
 「フューチャー・ランゲージ」とは、井庭の提唱する未来思考のメソッドです。未来ヴィジョン・理想の未来像を構成する要素を、関連する人々で共に言語化し、共有し、語りあえるようにすることが特徴です。通常、約4時間のワークショップのなかで、目指すべき未来の状態と、そのヴィジョンでは何がよいとされているのか(価値:What)、それはなぜよいのか(理由:Why)、それはどうすれば実現できるのか(方法:How)を、小さな単位で数多く見つけ出し、名前(Name)をつけます。そのひとつ一つを、目指す未来が言語化された「Future word」として扱い、利用者と設計者などで共有しながら、未来に向けた議論を行う題材としていくことに使われています。

「僕らがやりたいのはフューチャー・ランゲージだ!」と絶叫した

 実は、はじめて井庭さんと会ってお話したその時に、「Future Language Workshop」の取り組みがスタートしたんです。当時、井庭さんが構想として持っていたもの、それがフューチャー・ランゲージでした。僕は、この話を聞いて、「UDSがやりたいのはフューチャー・ランゲージだ!」と絶叫したのを今でも覚えています。よりよい未来に向けて、その地に住む人々が集い、学び、成長していく場を造りたかったのです。今、海老名をはじめとして、まちづくりの新しい起点として展開している「Future House」はこのコンセプトから来ています。
 井庭さんとは初めて会ったのに意気投合して、じゃあやりましょう、ということになり、まずは手始めにUDSのオフィスをフューチャー・ランゲージで改装しようということになりました。今でこそこだわってデザインされているこのオフィスですが、以前はただ事務机が並んでいるだけだったんですよ。社員で理想のオフィスや当時の問題を出し合って「非圧力カフェ」などの言葉(Future word)をつくり、それを設計に活かして、このオフィスに改装したのです。これが、記念すべき「Future Language Workshop」の始まりでした。

フューチャー・ワードを元に改装されたUDS代々木オフィス

フューチャー・ワードを元に改装されたUDS代々木オフィス

Future Wordが起点となり、薩摩川内でマルシェを開催

 その後もUDSは、フューチャー・ランゲージを使ったワークショップを何度も実施し、場をつくってきました。例えば、鹿児島県薩摩川内市にあるスマートハウスというモデルハウス。そこを単なるモデルハウスではなく、人が集まるように場をつくりたい、と思っていました。ここに市民を集めて、未来の公民館のような形で定期的にいろんな議論をしながら、新しいことやものをつくり出していく。北欧にある、「フューチャーセンター」というスタイルをモデルとして考えていました。話しやすい場をつくり、僕らがコーディネーターとなり、Future wordを論点として議論を促進するのです。この取り組みでは、まずは、市役所の課長さんたちを20人くらい集めました。そして、スマートハウスで市民と話せるとしたらどんなテーマがいいかを考えてもらったところ、食と農業、子育て、観光がTOP3にあがったので、この3つのテーマでFuture Language Workshopをやることにしました。

薩摩川内の若手農家を集めて、未来を語るフューチャー・ランゲージ・ワークショップを実施。

薩摩川内の若手農家を集めて、未来を語るフューチャー・ランゲージ・ワークショップを実施。


 まず、食と農業については、井庭さんにも参加してもらい、地元の若手の農家さんたち7人に集まってもらって開催しました。ここで生まれたFuture Wordで一番記憶に残っているのは、「オープンシャッター」です。これは20代の農家さんが自分の農作物を直売したいという未来像と、商店街がシャッター街になってしまっているという現在の問題が結びついて、解決策を「オープンシャッター」というFuture Wordにしたのものです。商店街のシャッターを開けて、若い農家さんが直売できるようにする、という解決策ですね。そして、次は、この「オープンシャッター」を中心に深掘りして、さらに31個のFuture Wordが生れました。その後、商店街の空き店舗で具体的に打ち合わせを始めることになって、どんな野菜や果物を置くかを考えたりと、具現化に進んでいきましたね。全5回のワークショップとミーティングを重ね、実際にマルシェを開催するに至りました。
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実際に暮らす人をワークショップに巻き込み、Future House施工へ

 海老名にある「RICOH Future House(リコー フューチャーハウス)」も、Future Language Workshopで生まれたFuture Wordを活用して建てた事例のひとつです。海老名で子育て中のママさん、海老名に通勤する会社員など、実際に使うであろう人たちの意見を聞きたいと思い、海老名に暮らす人にワークショップに参加してもらいました。
 このプロジェクトは、本当にまちづくりなんですよ。そもそも、始まったきっかけは海老名の西側を盛り上げるためでした。今は活気がありますが、以前は本当に田んぼの状態だったのです。そんな中で、大きな商業施設ができることが決まって、それら新規事業の開発拠点でもあり、まちづくりの拠点にもなる場をつくることになったのです。そこにUDSが携わり、Future Language Workshopを行って、実際に暮らす人とFuture Wordをつくり、施設の設計にいかしていきました。
 海老名でのFuture Language Workshopの中で一番印象に残っているのは、「ベビーカーワイド」というFuture Wordです。ベビーカーも通りやすい通路がほしい、というママさんから出たもので、実際に設計に活かされ、どこに行くにもベビーカーが通りづらい箇所がないようにつくられています。施設内のレストラン「PUBLIE」の店長から、「ベビーカーを押しながらトイレに行けるのがいい」とお客様から嬉しい反応があったと報告を受けました。ここでも、まちづくりとFuture Wordは本当に相性が良いと実感しました。その街で過ごす人の希望を、本当に設計にそのまま落とし込めますからね。

RICOH Future House

RICOH Future House


小学生でもFuture Wordはつくれる!

 UDSも運営に参加している、「練馬区立こどもの森」という公園を舞台に未来の公園を考えるFuture Language Workshopを行ったこともあります。自然を体感できる遊具や畑があるのが特徴の公園でして、5倍くらいの面積に広げるという拡幅計画が出たときに、子どもの意見を反映したいという思いからワークショップを企画することになりました。この時はなんと、小学生とFuture Wordをつくる挑戦をしました。最初はどうなるかと思いましたが、自分の想像を上回るアイデアが出てきました。
 パターン・ランゲージもそうですが、フューチャー・ランゲージはやり方というか行程がとてもシンプルなので、老若男女さまざまな人を巻き込める良さがあるとこの時に気づくことができました。このワークショップは1日完結でしたが、練馬区にとってもニュースになる、話題性のあるイベントになったのではないかと思います。

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パターン×フューチャーで、想いを伝承するランゲージになる

 パターン・ランゲージの目指すところは、過去の英知をいかし、よい未来の方向性をつくることではないでしょうか。だとすれば、フューチャー・ランゲージとセットになると、その力はとても強くなると思います。セットじゃないといけないのではないかと思うほどです。パターン・ランゲージにフューチャー・ランゲージを掛け合わせて、一緒に使っていけるのではないか、と。パターン・ランゲージで、創業期からこれまで大切にしていることを記述し、フューチャー・ランゲージでは、今後5年、10年でやっていきたいことを記述する。パターン・ランゲージで成功法則、経験則を整理・傾向化したら、その次のステップがフューチャー・ランゲージ。向かうべき未来を言語化することが用意されていた方が、結果的にパターン・ランゲージも使いやすくなると思います。
 この方法は、企業に限らず、学校法人や病院など、人を雇ってある一定のことを成し遂げようとする団体には全部受け入れられると思うんですよね。たとえば今、需要が急に増えている老人ホームなどは、経験則も成功体験も少ない中で進めざるを得ないと聞いています。でも、ヴィジョンを固めずにどんどんつくっていってしまうと失敗に陥ってしまう危険があります。だから数少ないとしても、経験則をパターン化して、フューチャー・ランゲージと結びつけていくとかなりリスクが減らせると思います。
 過去と未来のバランス分析みたいなものもできるかもしれません。経験則が多くても、将来感がないのはまず仕事になりません。過去の経験則と将来が同じくらいのバランスだと良いですよね。一方、過去の経験則がほぼなくて将来がやたらある、AI分野なども今すぐ取り組んだ方が面白いと思いますね。
 僕が思うに、企業の中で、パターン・ランゲージは「想いの伝承」に活かされるのだと思います。UDSは実際に「Project Design Patterns」をつくったので、これから、創業者である梶原の想いを社内につないでいくことを目指しています。この想いを社内に浸透させつつ、並行して、今後のUDSを考えるための「Future Language Workshop」を社員で行い、「UDS STYLE」として言語化しています。パターン・ランゲージとフューチャー・ランゲージを通して、過去の強みをいかしながら、社員全員が、目指すUDSらしさを考えながら事業に取り組んでいけることを目指して行きたいですね。

パターン・ランゲージの可能性について語る中川社長

パターン・ランゲージの可能性について語る中川社長

創業者の企画に対する考え方やコツを言語化することによって、「想いの伝承」が実現できることを強く感じられるパターン・ランゲージの活用。そして、フューチャー・ランゲージを通して、そこで働き暮らす人の生の声を事業に活かすことに取り組む中で、これらのランゲージを企業がよりよく活かためにはどのようにすればよいのかを語っていただきました。 井庭とともに、パターン・ランゲージやフューチャー・ランゲージの新たな可能性を模索してきたUDS中川社長。パターン・ランゲ―ジとフューチャー・ランゲージの2つを本格的に取り入れ、試行錯誤をしているのは、現時点ではUDSのみです。ランゲージを使い、いきいきとした組織をつくりながら、よりよい事業を進めていく先駆者として、今後の探究と実践がさらに楽しみになるインタビューでした。