【パターン・ランゲージ活用事例Vol.6】宝仙学園中学・高等学校理数インター 伊藤大輔・米澤貴史・藤井証高先生「生きる力」学校教育への活用事例—パターン・ランゲージの授業への活用


パターン・ランゲージ活用事例をご紹介する本コーナー、第6弾の今回は企業から離れ、学校での活用について、宝仙学園中学・高等学校理数インターの先生方(伊藤先生・藤井先生・米澤先生)に語っていただきます。宝仙学園は世界で初めてパターン・ランゲージを年間のカリキュラムに導入した学校。「答えのない課題に向き合える生徒を育てたい」という考えの元、新しい学びを生み出す宝仙学園のチャレンジを取り上げていきます。

ラーニング・パターンとの出会い。きっかけをくれたのは、卒業生。

「SFC(慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス)に進学した卒業生が遊びにきてくれて、『大学が楽しい。こんな授業があってとても面白かった』と教えてくれたんです。」という伊藤先生。その生徒が話してくれた「面白い授業」とは、SFCに入学した学生が必ず受ける授業「総合政策学/環境情報学」の一コマ。500人近い新入生が一堂に会し、学びのコツをまとめたパターン・ランゲージ「ラーニング・パターン」を用いて、学びの経験について対話し合うワークショップ型授業のことでした。

伊藤先生:その後、次年度に新設される新しい授業の構想を練り始めたときに、ただグループ・ワークやディスカッションをしてアクティブラーニングの実践っぽいことをするのではなく、どうせ新しく創るなら本質的なことに取り組みたいと思ったんです。そこで、その話をしてくれた卒業生に連絡を取って「ラーニング・パターン」の冊子を見せてもらいました。そして、「これがあれば新授業のカリキュラムが作れる!」と思いました。

 


左から伊藤先生、藤井先生、米澤先生

左から伊藤先生、藤井先生、米澤先生


 

「コツ」が見えることで、考えも行動も変わる。

伊藤先生:「ラーニング・パターン」で学び方のコツを見たときに、これを共有できれば、もともと勉強の苦手な生徒も勉強の得意な人のコツを真似して、学ぶ経験を実感しながら高めていけるのではないかと思いました。そこで、井庭先生に連絡をしてみたところ、他のパターン・ランゲージ(「プレゼンテーション・パターン」「コラボレーション・パターン」)もあることを知ったんです。まずは使ってみようと、3学期の終わりにさっそく中学1年生の授業で試し始めました。

藤井先生:まずは「プレゼンテーション・パターン」から始めました。知った直後でしたが、早速カードを使って授業を実施してみたんです。発表を行う際に気を付けるべきことを各チームごとに3枚ずつ選んで、発表の準備をしてもらいました。そうしたら、僕のいないところで寸劇を作ってきたグループがあったんです。こういうことを中学1年生が自ら考えて出来るんだと驚きました。今までだと、発表させてもただ原稿を読んで終わりというスタイルばかりだったんです。

伊藤先生:みんな、うまくやりたいと思っているけれど、そのコツがわからないだけなんです。ですから、こんなコツがあるということが分かれば、それを生徒自らが意識しようとするんですね。他者のコツを参考にして、自分の行動を変えていく。これはとても大きい経験になると思いました。

米澤先生:私は、教員研修で「ラーニング・パターン」のカードを使って対話をしてみたんです。そのとき、どうやって勉強をしたらいいのかが分からない生徒に対する指導にいつも苦労していたけれど、このカードがあれば、どういうふうに勉強すればよいのかを伝えられるので非常に面白いと言ってきてくれた教員がいました。ここで、生徒だけでなく教員にも響くことが実感できました。

答えのない学びに挑戦する。新教科「理数インター」は生徒の一番好きな授業。

米澤先生:こうして、今年度から始まった新教科「理数インター」に、パターン・ランゲージを取り入れようということが決まりました。ラーニング、プレゼンテーション、コラボレーションの3つのパターン・ランゲージの中で、中学1年生にとって一番いいパターンは何だろうと検討した結果、1年時のカリキュラムには「コラボレーション・パターン」を採用することにしました。中学受験を経て入学し、違う学校から来た初めて会う子ばかりの中で中学の学びがスタートします。その中で、周りと打ち解け、よい学びをするためには仲間と協力するという経験がまず必要だという観点からです。

 

 


「理数インター」の授業風景

「理数インター」の授業風景



 

伊藤先生:中学2年生になると「プレゼンテーション・パターン」を使う予定です。中2は、「中2病」とも言われるように、自分の内側に籠ってしまいがちになってきますので「プレゼンテーション・パターン」を軸に置き、自分や自分の考えを表現するコツをつかむことによって、殻に閉じこもらないよう導いていきたいと考えています。

藤井先生:生徒たちが、どのように、どれくらい成長しているかを見ながら授業を作っていくべきだと考えています。本当に生徒に役立つ、使えるものを考えようというときに、その場に居る生徒を見ないで作ったところで、いいものができるわけないんです。その場の生徒を見ながらアレンジしないと、せっかくこちらに寄ってきている生徒がやる気を失ってしまいますから、その場で生まれるムーブメントを大切にしていきたいと思っています。ですから、中3では、いよいよ高校に向けて「ラーニング・パターン」を使う予定ですが、まだ詳細は決めていないんです。コラボレーション、プレゼンテーションでパターン・ランゲージに触れた生徒たちが、どのように変化するかを見ながら、3年間を設計していくつもりでいます。

米澤先生:「理数インター」の授業ではいろいろなプロジェクトに取り組んでいきます。最初は、各グループごとにペーパータワー(新聞紙でつくる塔)を作ってもらいました。でも、最初はどのチームもうまくいかないんですよね。それで、翌週「コラボレーション・パターン」のカードを使って各チームに振り返りをしてもらいます。自分たちのチームに足りなかったこと、取り入れたいことなどをカードから選んでもらい、次はどうするかを考えた上で、その翌週に再チャレンジします。

藤井先生:振り返りの授業の最初には、マスクを被った怪しい謎の人物が登場する動画をつくり、流しました。彼が、みんなが失敗したことを笑い飛ばすんです。ある種の挑発ですね。そうすると、悔しいんでしょうね。翌週の再チャレンジに向けて休み時間に集まって作戦会議をしたチームもありました。

伊藤先生:この授業の狙いは【答えのない学び】をすることなんです。これまで考えなかったようなことに多く触れ、今まで自分にはなかった新しい思考に、より多く直面することで、自己を変えていって欲しいと思っています。

藤井先生:今のところ、この新しい教科に対する手ごたえはあります。一番好きな授業は?と生徒に聞いたら、たぶん教科「理数インター」と答えると思いますよ。これからも、答えのない問いを楽しめる授業をしていきたいと思っています。2学期はSONYのMESHという電子タグを使ってチームでプログラミングに挑戦します。そういったチームプロジェクトのとき、コラボレーション・パターンを使っての振り返りを繰り返すことによって、自然と思考が変わり、コラボレーションが上手になっていくのが興味深いと思っています。

 


理数インターの授業風景。この授業では校内版ピクトグラムを作成中。

理数インターの授業風景。この授業では校内版ピクトグラムを作成中。



 

部活動でも活用。自分たちがやりたいことに、自分たちで気付くきっかけに。

米澤先生:顧問をしている部活動(吹奏楽部)でもコラボレーション・パターンを使ってみました。翌年部活動内で最高学年となる高校1年生に、部活動を運営する学年になるにあたり、どのように下級生をまとめていくかカードを使って考え、学年で共有して発表するように言ったんです。そうしたら、このようにまとめてきました。

 

 


吹奏楽部の生徒がまとめた「大切にしたいこと」

吹奏楽部の生徒がまとめた「大切にしたいこと」


何も言わなくても、自然にできるんですよ。生徒には、今までの経験から、「うまくいかない」「こうなっちゃう」という問題意識があるんです。それに対する解決のコツが書いてあるから、「あ、こうしたらいいんだ」と自然に考えていけるようですね。

伊藤先生:周りの仲間が必要という認識ができることで、一体感が生まれ、クオリティを高めながらゴールに向かうことができますよね。しかも、このプロセスを後輩たちに示すことができます。今まで生徒たちが無意識にやってきたことが、イラストや言語化されているものによって共有化され、深まるだけでなく、引き継いでいくことができると考えています。

藤井先生:今の生徒は聞き分けが良いので、先生がこうしないさいと言ったことは素直に実行します。でも、それは自分の考えじゃなくて、先生に怒られないように、先生がこうしなさいと言ったから、とやっているんです。でも、これを高校3年生まで続けていてはダメなんです。僕ら教員は生徒の卒業後は、やり方を提示し続けることはできないですから。自分を客観的に見られるところにつながっていかないとダメなんですよね。自分が出来ていないことに自分で気付き、それを認め、自分で穴を埋める。それにパターン・ランゲージを使った思考を経験していることは、有用だと考えています。

先生たちが語る、教育におけるパターン・ランゲージの魅力とは。

伊藤先生:コラボレーション・パターンでもプレゼンテーション・パターンでも、イラストや言葉で「うまくやるコツ」が表現されています。それを見て、生徒が「これはできている」「できるようになった」と認識できるようになることは、とても大きなことだと思っています。勉強が苦手で自信のない生徒は、これまで何をやってきたのか聞くと「何もやっていない」と答えることが多いのですが、よくよく聞いてみるとすごくいい経験をしていたりとか、良い想いを持っていたりするんです。でも、それを他人から言われないと認識できないことも多いので、こういったコツが言語化されていて、それを意識できるということは自己肯定感につながっていくと思っています。

 


伊藤先生の考えるパターン・ランゲージの魅力

伊藤先生の考えるパターン・ランゲージの魅力



 

米澤先生:生徒にはクリエイティブな発想をどんどん出せるように、枠にとらわれないで考え、動けるようになってほしいと思っています。それは、先ほどの新しい授業「理数インター」の答えのない学びを経験することで、できるようになっていくと考えています。

そこにパターン・ランゲージがあることによって、学ぶ空間をプロデュースすることができます。教科書だと、これが正しい・正しくないという〇か×での判断軸しかないけれども、パターン・ランゲージには唯一の正解というのはありません。よりよくするために、どのカードを選んでも間違いではないし、さらにはカードの解釈を多様にしても問題ないんです。イラストを一つとっても、生徒によって捉え方や引き出される発想が違いますが、どれが正しいということはなく、どれも認めていけるのがいいですね。

 


パターン・ランゲージの魅力について語る米澤先生

パターン・ランゲージの魅力について語る米澤先生



藤井先生:先生に「どうすればいいか」と答えを求めてくるのではなく、自分で答えを探そうとして欲しいんです。真面目に働いていてもリストラにあったり、日本を牽引していたような企業が倒産したりする時代ですから、これから社会に出たときに、これさえやっていれば間違いない、ということはありません。答えは一つじゃないんだから、自分で探しなさい、何を信じるかといったら自分しかないよ、と。ですから、答えの明確でない問に対して、自分で考えられるようになってもらいたい。パターン・ランゲージは、その訓練になります。自分で考える力、それが「生きる力」に結びついていくと思っています。

 


藤井先生の考えるパターン・ランゲージの魅力

藤井先生の考えるパターン・ランゲージの魅力



 

卒業生が帰ってくる場所。

生徒たちをみながら、新しい学びを真剣に考え、日々の授業をクリエイトしている宝仙学園の先生方の熱い思いをお聞きすることができました。そんな思いが生徒にはきちんと伝わっているのでしょう。先日お伺いした文化祭では、卒業生が率先して在校生や保護者と交流するような場を設けて、イキイキと大学生活を語っていました。

「大輔さんに会った?」(注)伊藤先生のことです。

「藤井さんにも聞いてみようか」

という卒業生たちの会話からも、先生たちへの親近感、信頼感が伝わってきます。小学生向けの模擬授業を行っていた米澤先生のところには、授業中にも関わらず、何人もの卒業生がドアを開けて笑顔を見せました。

生徒の将来を真剣に考え、生徒に合わせて、毎日の学びをアレンジする先生たちの奔走は、生徒たちに伝わり、信頼し合える学びの関係をつくっているようです。そんななかで、教科学習だけにとどまらない学びを目指し、動き始めたパターン・ランゲージを使ったカリキュラムは、今後どのように動いていくのでしょうか。

導入してからたった半年の間にもパターン・ランゲージの使い方をどんどん進化させている宝仙学園。ここから、今後の新しい教育のしかけが生まれていくのかもしれません。

 

 

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◇創造的な学びの秘訣をまとめた「ラーニング・パターン
◇創造を誘発する表現の秘訣をまとめた「プレゼンテーション・パターン
◇創造的な協働の秘訣をまとめた「コラボレーション・パターン